2019年5月25日土曜日午後。
事務所の壁の中から、小さな子猫が救出された。
体重290g。
白地にブチ三毛の女の子。
その子は、その2日前の深夜から壁の中でひとり戦っていた。

やたらと長い長屋づくりのテナントの一番はじ。
それがはなの友人であるお姉ちゃん(という名の他人)が働いている事務所だ。
人が出払うことも多い中、きっかけは木曜日の夜だった。
事務所にいた男性社員が壁の中から猫の声が聞こえる気がしたそうだ。

うん、ちょっとしたホラー。

あけて金曜日。
いつも子猫を連れて歩いてる野良母猫が、猫の声が聞こえる気がする壁の外をうろつき出す。
壁を掻いたり鳴いてみたり。
必死でうろつくその野良母猫の行動や態度を見て、そして聞こえる子猫の声で、確信する。
事務所にとっても長屋にとっても一番はじになる壁の中。
子猫はその中にいる。

野良母猫はとても賢い猫なんだろう。
なんとか、ここに子猫がいること、自分じゃ助けられないことを人間にアピールしていたという。
そのおかげで、遅ればせながら人間サイドにも状況の把握が追い付いた。
長屋づくりのテナントは天井と壁の間らへんに他のお店とつながっている通路のようなものがあるらしく、猫はそこを出入りしていて子猫だけが壁で作られた柱の中に落下したらしい。
子猫はその中でどうすることもできず鳴いているようだった。

状況が飲み込めたお姉ちゃんや男性社員は、上司である社長に報告。
翌土曜日昼。
はなもよく知っている決断の早い社長は大家さんに連絡を取り、
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無事子猫を救出。
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壁は通気性抜群になった。

それから約6時間後の遅めの夕方。
お姉ちゃんからの動画付きLINEではなも事情を知る。
お姉ちゃん曰く、
「子猫を母猫に返してやりたい。
 でも、昼から姿を見ていない。
 だから代わりばんこで母猫待ちをしている」と言う。
野良母猫に返すために、極力人間のにおいをつけないよう段ボールに入れて水だけはあげて、判断がつかないためにゴハンもあげられずにいるらしい。
(野良母猫は一度人間のにおいやゴハンのにおいのついた子猫を引き取らなくなることがある)

その時点で夕方6時。
話を聞けば、それまでは定期的に壁の中の子猫のそばにやってきていたらしいけど、最後にやってきてからもう6時間は経過している。
それに、当の子猫は2日半絶食状態だ。
もともと栄養状態のよくないであろう野良子猫に、今の状況は過酷すぎる。
今は元気でも、下り出した瞬間命の火はあっという間に消えるだろう。
もらった動画ではよくわからなかったけど、それくらいの月齢だと思う。
結局、誰も何が正解かわからないまま何とかしようともがいてる。
いてもたってもいられなくなったはなは、これから事務所に母猫待ち役を交代しにいくというお姉ちゃんについていくことにした。

子猫は、事務所の入り口に近い段ボールの中で全力で元気に暴れていた。
子猫の声がよく聞こえるようにと入り口近くに設置したものの、大さわぎして段ボールから出ようとするので目が離せない状態だった。
第一印象は『思ってたより小さい』
動画では顔メインで撮影されてた分生後1か月半くらいかと思っていたが、実際見たら生後2週間過ぎくらいのサイズ。
でも、よく見れば乳歯も生えてるし、横耳でもない。
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とりあえずで持ってきたa/d缶もかぶりつくように上手に食べた。
(本当は赤ちゃん猫にa/d缶は早すぎるのでダメです)

事務所で仕事をしながら母猫を待っていた男性社員が、改めて一連の流れを教えてくれた。
そして、やっぱり母猫は今日の昼以来現れないままだという。
はなは思う。
猫って不思議なところがあって、人間みたいにモノを考えて動くときがある。
それまで半日と開けずに様子を見に来ていたのが、パタリと来なくなった。
その母猫はきっともうここへはこない。
落ちた子猫を助けてくれたのを確認して、人間に預けていったんだと思う。
母猫を待っても、もう事態は改善しない。
お腹の膨れた子猫は、さらにパワーアップして段ボールの中で暴れ始める。

まずは、この子の命を最優先だ。

続く。