2015年3月26日。
日付けが26日に変わるか変わらないかの時間。


25日の分の投薬も晩御飯も済ませたぴっくんは、リビングに置かれたプラスチックケースの中にいた。
キャットタワーへの上り下りが辛くなって以降は、ここが一番のお気に入り。
ミドリちゃんに作ってもらったクッションにもたれて、ゆっくり眠っていた。


はなが異変に気づいた時、ぴっくんは自力でプラスチックケースから出て、その前に置いてある白いカーペットの上で荒い呼吸をしていた。
今までもそういうことはあったけれど、明らかに過去の変化の範囲を超えていた。


呼吸の荒さがまるでちがう。


慌てて酸素濃縮器をセットして酸素をあてがうも、30分あてても落ち着いていく気配がない。
ある程度吸って落ち着いても、マスクを嫌がるぴっくんに任せてマスクをずらせば、あっという間に最悪な状態に戻ってしまう。
とにかく、嫌がろうとも酸素マスクを外さないよう、ずっと張りつくしかなかった。


普段、呼吸が苦しくても鼻呼吸でおさまっているのに、今日は口をあけて酸素を求める仕草をする。
そして、短い間隔で、しゃっくりのように体を跳ね上げる。
https://youtu.be/dttbK5V-s88
病院で見せるように撮った動画。
苦しいから、楽な場所を探して廊下へ出たぴっくん。
でも、そこで力尽き倒れこむ。
顔を見れば、口を開けて舌に力がなくて。
慌てて酸素濃縮器を持ってくるも、体は跳ね上がる。


倒れては酸素を吸って、廊下、リビング、猫部屋をぐるぐるまわること数時間。
最後は、猫部屋の白いキャットタワーの下で力尽きた。
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もう、酸素マスクを外すことは危険だと素人のはなにもわかっていた。
覚悟を決めて、ぴっくんに寄り添う。


時計を見れば、午前1時を少しまわったくらい。
病院が開くのが9時。
あと8時間。


ぴっくんを抱きしめて、酸素マスクが外れないようおさえながら、ただただぴっくんが少しでも楽になるよう願うしかなかった。


午前3時を過ぎた頃。
酸素マスクをあてても苦しがる頻度が増えた。


朝が遠い。
手元に引き寄せた携帯を何度も見た。
ぴっくんに何が起きてるのかはわからなかったが、もはや酸素マスクで酸素を送ることでは解決できないレベルにいることはわかってきていた。


殺してやったほうがぴっくんは幸せかもしれない。


本気で何度も考えた。
でも実行はできなかった。
泣きながら、何度も何度もぴっくんに言った。
「ママはぴっくんに生きててほしいから、この手を離してやることができない。
 でも、ぴっくんが辛かったら、もう頑張る必要はないからね。」


朝を迎えるまで、愛してるとありがとうとごめんねを、たくさん言った。
今腕の中にいるぴっくんは確かに生きてはいるが、もう長くない。
数分後か、数時間後か、数日後か。
わからないけど、もうそう遠くない未来に別れがくるんだということに確信があった。


朝、出勤するまーちゃんは辛そうにぴっくんの頬を撫でていった。
最後かもしれないから休めないかと問うたが、難しい顔をして首を振った。
せめて、覚悟だけはしといてと言うとわかったとうなずいた。


朝9時前。
もしやの望みをかけて、酸素室レンタルの手配をした。
午後イチで持って行けると言われ、即答した。
酸素マスクでは張りついているしかないし、酸素室ならもっと多くの酸素を吸わせてあげられるかもしれない。
諦めているのか、諦められないのか、もう自分でもよくわからなくなっていた。


ぴっくんは、まだ跳ねたり錯乱したりはするものの、落ち着いて酸素を吸っている時間が増えていた。
直前まで迷ったが、病院に連れて行こうと決断した。
そのまま病院に電話をし、今から容体の急変したぴっくんを連れて行くと伝えた。
「待ってます」の声に、キャリーにぴっくんを入れ、財布と携帯とカメラだけ持って飛び出した。


酸素がない状態で移動するのだから、苦しいに決まってる。
事故らないように最大限急いで病院について、すぐに診察室に呼ばれた。
院長先生の顔は険しかった。
はなは、状況を説明し、カメラを見せた。
診察台の上のぴっくんは、酸素をあてがわれ、注射を打たれていた。


とりあえず、この状態ではなにもわからないから、酸素室に入れて落ち着いてからの話になる、と言われて、お預かりになった。
どのみち、酸素室が午後イチにしか届かないことを伝えると、お迎えは5時でいいと言われた。
よろしくお願いしますと頭を下げて、帰宅した。


不思議なもので、病院に預けれたことで助かるかもしれないと思い始めていた。
状況は何も変わっていないけれど、少なくとも今まだぴっくんは生きている。
そして、病院にも間に合った。


家に帰ると、むしろ張り切ってぴっくんを迎え入れる準備を始めた。
酸素室はどこに置こうか、そのためには少し掃除をしようか。
ちょうどいいから、ぴっくんのお気に入りクッションは洗濯しておこう。


そして、徹夜明けとは思えぬほど家事をこなした、午前11時半過ぎ。
電話が鳴る。
病院からだ。
「ぴっくんの容体が変わったので、今すぐ病院に来てください」


嘘だと思った。


病院につくと、すぐに診察室のさらに奥に呼ばれた。
大きな機械に囲まれた診察台の上で、一目でもうだめだとわかるぴっくんが横たわっていた。


先生が、治療中に大きな発作が来て意識を失ったと教えてくれた。
夜中中きていた、あのしゃっくりみたいなやつだなと、すぐわかった。


ぴっくんは、まばたきひとつせず真ん丸に目を開いていた。
口には酸素吸入の管をくわえて、手には点滴。
胸には、鼓動をはかるためだと思われる電極がついていた。


「ぴっくん、ママきたよ?わかる?」
反応はもちろんなかった。
撫でれば暖かいのに、まだ生きているのに、ぴっくんは今永い眠りにつこうとしていた。


「先生、ここから回復することはありますか?」
はなの問いに、先生は困ったように眉を寄せて、難しいです、と言った。
そうか、と思ったら涙がこぼれた。
受付ちゃんが、ティッシュを箱で持ってきてくれた。


「先生、もう楽にしてあげて下さい」
去年の夏に腎臓病を発症して以来、8カ月。
ぴっくんは、よく頑張った。
皮下輸液だっておりこうにしたし、薬だって毎日ちゃんと飲んだ。
ご飯食べさせられたって最低限の抵抗で我慢して、体重減少が止まらなかった苦しい体で、生きてくれた。
もう十分。
残りの重荷は引き受けたる。


麻酔だと言われた注射をされると、ぴっくんの心拍数はゆっくりと下がっていった。
「ぴっくん、きっとももんちが迎えに来てるはずだから、探しなよ」
何も考えられない状態で、ふと思ったのがこれだった。
2年前に亡くなったうーの兄弟のももんちはぴっくんと仲良しだったから、むしろ寂しくてぴっくんを呼んだんじゃないかとも思った。
「次の子の時は、ちゃんとふたりで迎えに来てね」
ぴっくんの心臓がゆっくりと停止した。


ぴっくんを綺麗にしてもらってる間に、酸素室を断って、まーちゃんにメールした。
ミドリちゃんに電話を入れたら、第一声でミドリちゃんが泣き崩れた。
家に帰って、どこかふわふわした気持ちのままブログをアップしたら、予想外にコメントを頂いた。
はなは、どんどん死後硬直していくぴっくんを抱いたまま、気の済むまで泣いた。


振り返れば、後悔だらけだ。
できたことはかすみ、できなかったことばかり思い浮かぶ。
変えられたかもしれない未来を、ありとあらゆる可能性で考えてしまう。
だけど、それだけじゃなかったと思いたい。
ぴっくんの最期は確かに苦しかったかもしれない。
病気になってからはしんどかったし、最後の半日の辛さははかりしれなかっただろう。
でも、ぴっくんの生きた12年。
11年と4ヶ月は、幸せだったと思う。
だって、はなが幸せだったから。


のんびり屋のマイペースなくせに神経質だったぴっくん。
ボスなんだけど、ボスらしいことなんて1回もしたことなかったぴっくん。
誰からも好かれて、猫からも好かれて。
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覚えててほしいのは、幸せそうなぴっくんの姿。


苦しい思いをさせることになってごめん。
でも、ぴっくんがいてくれたおかげで、はなもみんなも吹っ飛ぶほど幸せだった。
日向ぼっこLOVEのぴっくんの、お日様の匂いのお腹。
鼻のまわりの模様のせいで何やってもどこか締まらない顔。
大柄なボディにふと短い足。
茶トラと言いつつほぼオレンジ色の毛皮は実は割と粗悪品。
全部可愛いと思ってた。


あの世や虹の橋があるのか、はなにはわからないけど、
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これからもずっと大好きだぞ、ぴっくん。


ぴっくんに向けて、コメントを下さった方々へ、この場を借りてお礼を言わせてください。
本当にありがとうございました。


まこりんさん、ことりさん、えいとにゃんさん、ゆりさん、HKさん、そしてはるサン。
世界で自分たち以外にもぴっくんの死を悲しんでくれてる人がいること、そのことに自分でも驚くほど救われました。
私は、現実世界の知り合いに動物を飼っている人間が親と弟くらいしかいないので、誰にも話せずにいました。
私はそんな言葉をかけて欲しかったんだなあと、改めて知りました。
はるサン以外は、普段コメントなんてしないような方々だと思いますが、今回「いてもたってもいられず」してくれたこと、本当にうれしく思います。
ありがとうございました。


そして、はるサン。
うちは先に脱落してしまったけれど、もも様はまだまだ頑張ってほしい。
変わらず応援してます。
がんば!


ゆりさんのコメントが、表示上おかしなことになってますが、はなからは全文ちゃんと読めてます。
辛い経験なのに、語ってくださって、ありがとうございました。
表示は、原因がわかったら直すので、気長に待っててください笑