今、ライライはまーちゃんの部屋。
大好きなまーちゃんとベッド並べて水入らず。
今日のお昼過ぎにはみどりちゃんをのせて火葬に行き、その後はぴっくんやももんち達のいる共同墓地へ。
今夜は、ねこもり家で過ごす、最後の夜です。


去年の暮れに、糖尿病と口内炎が発覚してから2カ月。
必死に血糖値と口の痛みをコントロールしていると、1か月後には肥大性心筋症が発覚。
通院と検査と投薬とインスリン、そして療法食。
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日々追加される治療を、ライライはおりこうに頑張ってくれていた。


明確に体調に異変がでたのは、19日金曜に日付が変わった深夜。
その日、晩御飯を嫌がったライライは、糖コントロールのウェットフードを少しだけ食べて、数時間後にすべて嘔吐。
具合が悪そうなそぶりも、しんどそうな様子もなかったので、水分補給とカロリー補給になればとちゅーるを出すと、それはおいしそうに完食。
たまたま調子が悪かっただけだろうと、吐瀉物を片付けて眠りについた。


19日金曜日、早朝。
いつもの朝食の時間。
ライライは食事を食べようとはしなかった。
糖尿病のインスリン注射のためには、食事は必須。
療法食じゃなくてもいいから、何か食べないことにはインスリンは打てない。


家においてあるおいしいスープやウェットフード各種、かつおぶし、ちゅーる等のおやつにいたるまで試したものの、ライライは全部拒否。
昨日と変わらず、具合も気分も悪くはなさそうなのに。
どこかで他の物を食べた形跡もないのに、拒否。


背中の皮膚をつまむと、わずかに脱水しているような感触がある。
食べてないだけではなく、飲めてもいないんだろうか。
素人ではわからないところがおかしいのかもしれない。
はなは、ライライを病院へ連れて行った。


事情を話すと、血液検査と尿検査をすることになった。
結果は、今までと特に変わりなし。
血糖値は相変わらず高いし、けしていい数値が並んでるわけではないけれど、大きな変化はない。


気になるのは、やっぱり脱水してることと、うんちが出ていないんじゃないかということだった。


先生が触った感じでは、かためのうんちが肛門奥にある、と。
脱水から便秘になって、おなかが苦しいのではないかという判断だった。


なので、治療は皮下輸液をうつことに。
脱水をケアしつつ、その中に腸を活性化いさせる薬とビタミン剤をいれて便秘解消を目指すことになった。
糖尿病発症以来足の筋肉が落ちてよろけるようになったとはいえ、まだまだ元気なライライは、ぷりぷり怒りながら自らキャリーに戻っていった。
帰宅後のライライも、いつもと変わりなく見えた。


19日金曜日、深夜。
結局何も口にしてくれないまま1日は過ぎようとしていた。
ゴハンを食べたそうにするので持っていくと、少しにおいを嗅いで顔をそむける。
この頃には、足のふらつきも明らかにひどくなっていた。


相変わらず食べてくれないので、インスリンはうてない。
うんちも出ていない。
元気があるのだけが救いだった。


20日土曜日、朝。
診察時間を待って病院へ駆け込む。
朝まで横に張り付いていたが、わずかに水を飲むだけで食事はやっぱりしてくれなかった。


昨日の様子と状況を話すと、出てないうんちがふたになってるかもしれないので摘便することになった。
腸が伸びきってしまっていたらしく、出すのは容易ではなかった。
先生にかきだされる大量のうんちは、どれも丸くかたくなっていた。
ライライはお尻に指を入れられ嫌がっていたけど、はなは心の底から安堵したのを覚えている。


便秘だったのか。
かすかに感じた嫌な予感は気のせいだったんだ。
これでライライはまた元気になる。
よかった。


先生から、うんちが詰まってたことで出れなかったガスがおなかにたまっていると言われた。
うんちが出たことで、このガスがでれば、また食欲も復活していくはずだと。


昨日皮下輸液を入れてるから、本当は明日の21日日曜に皮下輸液を再度やるのが理想。
でも、日曜はねこもり家かかりつけの病院はお休み。
なので、今日の皮下輸液は今日1日分だけにして、明日家ではなが皮下輸液をうつことになった。
先生は、食欲が戻ったら月曜日は来なくて大丈夫ですよと笑っていた。
はなも笑顔で病院を出た。


帰宅後。
はなは、ホームセンターとペット用品店をまわり、ライライの好みそうなおやつやスープやウェットフードを買い込んだ。
そして、ちーに開けられない自動給水器と、FITSケースで有名な天馬のカバコをひとつ買った。
リビングを好むライライがいつもいる一角に、快適な巣を作ってやりたかったからだ。
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幸い、カバコで作ったハウスも、
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久しぶりの自動給水器も、ライライは気に入ってくれた。
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だいぶ足の力は弱くなってはいたが、よろつきながらも自らハウスへ入ってはうつらうつらまどろんでいた。
あとは、ガスが出て食欲が戻ればいい。
具合が悪くなって以降、ライライのそばにははなかまーちゃんのどちらかがついているのが普通になっていた。


20日土曜日、夜。
病院に行ってから、半日以上が経過。
ライライの様子に変化はない。
食事は相変わらず無理。
うんちもガスも出ていない。
夜中になって、ようやく漏れたようにおしっこが出た。
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こたつ布団カバーの上で出たそれは、立ち上がることが間に合わなかったライライのおなかと四肢を濡らした。


かなり大量に出たおしっこを片付けながら、安堵した。
体の中はゆっくりかもしれないけど確かに動いてる。
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濡れた体は濡れタオルで拭いて、新しいお気に入り毛布でくるんであげた。


21日日曜日、日付変わった深夜。
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お水を飲んだライライが嘔吐。
何も食べてない体はそのまま水だけが出た。


21日日曜日、早朝。
夜から朝にかけて、ライライは目に見えて悪くなっていた。
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足にはほぼ力が入らず、立ち上がったと同時に倒れてしまう。
もしかして目もよく見えてないかもしれない。
触れた体温が、じわじわ下がっている気がして、ファンヒーターやこたつで暖をとらせた。


ガスは出ない。
脱水もしている。
食事にはもう反応もしなくなった。
においもわからなくなったのだろうか。


本当はもう少し後にするつもりだった皮下輸液を、朝7時にうった。
これが最期の希望だった。


21日日曜日、日中。
まーちゃんと交代して仮眠をとる。
望んだ変化は何ひとつなかったが、這っていって新しい自動給水器でお水を少しだけ飲んだらしい。
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それから、気に入ったのかそのまわりで倒れていることが増えた。
名前を呼べは、わずかにしっぽを振って返事もしてくれた。


朝した皮下輸液は、ゆっくりと体に吸収されてはいるらしい。
でも、排泄されたものは、何ひとつない。


ライライは、確かに多少しんどそうではあるし、立てない見えないことに鳴いたりはするけれど、どこか痛くて苦しいという感じはない。
その代わり、おしっこをしたいそぶりも、食事を欲しそうにする姿も、何もない。
ただただ、楽な姿勢と場所を見つけては、浅い眠りと覚醒とまどろみを繰り返し、緩やかに緩やかに体温が下がっていく。


いやでもわかる。
今まで考えないようにしていた可能性。


ライライは、ゆっくりと死に向かっている。


確信だった。
まーちゃんも同じ意見だった。
口にした瞬間、涙がこぼれた。


糖尿病と言われたとき、助かる道を必死で探した。
心筋症と言われたとき、遠ざけたはずの死が見えた。


お気に入りの毛布に寝そべって、楽な姿勢を探すライライは、ちょっと昼寝しようとする姿となんら変わらないのに。
その四肢は、末端に軽いマヒ。
力は入らず、もうずりばいしかできない。
瞬膜が出たままになっている瞳は、もう何も見えていない。
きかなくなった鼻は、香りの強いゴハンを近づけても反応せず、鼻の頭についたちゅーるをなめとることさえしない。
かろうじて耳はまだ聞こえているようだが、だいぶ遠くなったのがわかる。


見えてる範囲だけでもこれだ。
体の中でも、たくさんの臓器や器官で同じようなことが起こっているのだろう。
ライライの体はもう、ゆっくりとそのすべての機能を止めようとしてた。


21日日曜日、夜から22日月曜日、朝。
浅かった眠りは、だんだんと深く長いものに変わりつつあった。
ずっと寝られなかった金曜とは違い、起きてる時間のほうが短くなっていた。
何を求めているのかわからないほどランダムに移動し、眠って起きる。
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ファンヒーターでどれだけ温めようが、体温はゆっくりとさがり続けた。
体調を崩してから何時間も撫でてきた背中は、ついに嫌になったようで、今は頭とあごを少しだけ撫でるのみ。
それでも、気持ちよさそうにあごをのばして目を細めた。


自動給水器横、ファンヒーター前、広いフローリング、もちもちクッション、etc。
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いろいろめぐった結果、最後の巣に選ばれたのは、はなの作ったカバコハウスだった。
自力でよじ登ったあと、何度か体勢を変えて眠りにつく。
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呼吸も穏やかで、苦しそうなそぶりがないのだけが救い。


終わりは近いと、なんとなく思った。
もちろん最期まで付き合うつもりだ。


この時点で深夜3時。
もし、朝までもつようなら最後の望みで病院へ行こうと思っていた。
もちろん無駄な延命はしない。
このまま逝かせる選択で間違いないか、はなが確かめたかった。


この3日間、今までないほどライライと一緒にいた。
ライライだけといた。
一方的だけど、たくさん話もした。


面倒見がよくておおらかで、人当たりのいいライライ。
優等生で、ひとのわがままをきくことはあっても、自分が何かをいうことはほとんどなかったね。
はなが増やす子猫を、片っ端から面倒見てくれたのもライライだった。
あじくんも、まめも、ちーも、ふうたも、トムも、みんなライライに育てられた。


愛してるよ、みんなのお母さん。
そして、はなの大事な可愛い娘。
うちの子になってくれて、本当にありがとう。


22日月曜日、朝8時半。
体温はかなり下がったけれど、ライライは穏やかな呼吸で眠っている。
最後に目を開けたのはもう1時間以上前。
わずかに身じろぐだけで、動きもない。
そっと毛布を敷き詰めたキャリーにうつしても、ライライはわかってもいないようだった。
これでだめなら、あとは家で静かに終わりを迎えよう。
いかにライライを穏やかに逝かせるか、もうそれしか考えていなかった。


早めに病院につくと、診察時間前なのに看護師さんが話を聞いてくれた。
もうかすかな反応しか示さないライライに触れ、その冷たさに顔色を変えた看護師さん。
体温計を持ってきて、そっと肛門に差し入れた。


表示されたのは、“30度”。
低体温。
わかってはいたけど、つらい数字だ。
看護師さんは、保温材とドライヤーで温めるようはなに指示すると、先生を呼びに行った。
診察時間を待たずして、処置が行われることになった。


看護師さんは体温をあげながら、先生は血液検査用の注射針を差し込む。
間違いなく血管に刺さってるのに、血液は出てこない。
時間をかけながらも、なんとか必要量をとり、あとは暖める作業に専念する。
ライライは、時々嫌そうに身をよじるだけで、どこか朦朧としていた。


保温材を抱いて背中を撫でてもらうライライ。
先生に、院長に、ユキちゃんに、人がめまぐるしく出入りする。


先生が、血液を検査にかけて戻ってきたとき、ライライの両腕が硬直したように伸びた。
目は見開かれ、あごを突き出したまま、ライライはあっという間にすべての動きを止めた。


一瞬で状況を把握した先生が、ライライを抱え上げ奥のオペ室に駆け込んだ。
もう、次の展開ははなにもわかっていた。


力なく診察室内の椅子に座っていると、先生に呼ばれた。
奥のオペ室では、心臓マッサージをされながら酸素チューブを入れられたライライが横たわっていた。
心臓をマッサージし続ける看護師さんが手を休めると、すぐに機械からアラームが鳴りだす。
のぞきこんだライライの顔は、こんな状況なのに穏やかだった。


はなの覚悟は決まっていた。
先生に、この状況を確認すると、蘇生をやめてもらうよう頼んだ。
看護師さんが手を放し、あっという間にすべての数値が0になる。


けたたましくアラームが鳴る中、ライライはこの世を去った。
2016年2月22日、午前9時35分のことだった。


はなよりも悲しそうな顔をしている先生に、忍びなかったけど少しだけ原因を聞いてみた。
はっきりしたことはわからないけど、血液が採れなかったり、ガスが抜けてなかったり、おしっこは出てはいなかったけど作られていたことを考慮すると、心臓が理由だったのではないかと言われた。
心臓と循環と脱水のトライアングルが、心臓がうまく機能しないから体の循環がうまくいかなくなり、循環がうまくいかないから脱水が起こり、脱水のせいで心臓に負担がかかり、負の連鎖をしたのではないか。
血液検査の結果の血糖値も、3日間何も食べてなかったのに高く、3日間何も食べてなかったせいで体力もなかった。
他にも理由はいろいろあるだろうけど、そういう感じだったのではないかと教えてくれた。

 
看護師さんが綺麗にしてくれたライライに触れると、うちで寝てた時より暖かくて、思わず涙が出た。
死後硬直どころか、ぐにゃんぐにゃんに柔らかいライライを段ボール棺に入れてもらい、病院を出た。


うつらうつらしてるところで一瞬で意識を失って、数分間の蘇生ののち、永遠の眠りについたライライ。
これは、幸せな死だったんじゃないかと思う。
少なくとも、はなはそう思いたい。
苦痛は短かったはずだ。
痛い思いもしなかったはずだ。

 
あのまま家にいたらもう少し生きれたかもしれないが、その時はきっと、何かできたことがあったんじゃないかと後悔したんだろうなと思う。
避けられないゴールに向かうしかない時に、後悔しない選択肢はきっとない。
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家に帰り、棺をあけ、まだ暖かくて柔らかいライライを抱きしめて、声をあげて泣いた。


ラインで報告してあったまーちゃんは、夜8時過ぎに神妙な面持ちで帰宅した。
間違いなくライライはまーちゃんが1番好きだった。
いつもまーちゃんに絡んでばかりいたライライ。
それを文句言いつつ受け入れてたまーちゃん。
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冷たくなったライライに触れながら、泣いていた。


神様コノヤロー。
文句くらい言わせろバカヤロー。
よくもこんなに早くライライを連れていきやがったな。
その子は一見しっかりして見えるけど、根城にしていたリビングに誰か入ってくるたび嬉しそうに爪といで見せたり伸びて見せたりするような甘えん坊で、ひとりが長くなるとそっと誰かを探したり部屋の外で待ってたりするような寂しがりやなんだ。
どうかはなたちが行くまで、ぴっくんやももんち達と一緒に守ってやってくださいお願いします。


ライライ、短かったけどしんどい闘病、お疲れさま。
ぴっくんとももんち達と、少しだけそっちで待っててください。
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いつまでもずっと愛してるからね。